koll 2019AWコレクション

Designer's Backstage Talk

楠原 麻由Mayu Kusuhara

古き良きヨーロッパの香りが漂う部屋で、美しく着飾った女性が優雅に過ごすプライベートな時間。エディット・ピアフが流れるその空間はすべてが完璧な映画のシーンのようだった。しかし楠原麻由がこのショーで見せたのは、遠くから眺める<憧れ>の世界ではない。それを自ら手に入れるための少しの勇気と自信を持つ現代の女性像だった。

kollがブランド開始以来初めて行うショーのリハーサルで、デザイナー・楠原麻由はそのインスタレーションの指揮を執っていた。「普通の暮らしの中にいるような空気感で」という楠原の言葉の背景には、服だけではなく周りの環境やライフスタイルまでを含めたものを総合的に表現したいという想いが込められていた。

<感情と生活>をテーマにした2019AWコレクションは、古きものから生まれた彼女自身のイマジネーションがベースとなっている。

「このコレクションを作る前、ヨーロッパに旅をしたり祖母の家に滞在したりと、古いものを見る機会が多くあって、当時の人はどんな生活をしてどんな気持ちでいたんだろう?と想像したことがインスピレーションになりました。毎日着る服をはじめとして、生活の中で選ぶものは感情と深く結びついていると思っています。感情には波があったり、変わりやすかったりするけれど、それもまた女性的でいいなと。」

kollの過去のコレクションと比べて全体的なカラーリングが少し柔らかくなっていることには、彼女自身の気持ちの変化も影響しているようだ。「今まで、服作りとパーソナルな部分は交わりえないと頑なに思っていたけど、もっと肩の力を抜いて素直になってもいいのかもと思えたんです。今回はより自分の<気持ち>に寄った気がします。」

女性らしいシルエットを引き出す美しい形やディテール、上質さと品格を感じさせる素材選びなどから、スペシャルな日のための服、あるいは遠くの憧れの人が着ている服、という印象を持たれるだろうか。

ちなみに、楠原麻由の憧れは「こういう服を普段からさらっと着る女性」なのだという。

いつか纏いたい憧れの服は、今日手にしたっていいし、自分の一部になってしまうくらいに毎日一緒に過ごしてもいい。

提案されているのは、そうして理想に近づく勇気と自信を持つこと、そして、過去の自分が作り上げたルールに囚われず気ままに人生を楽しむ姿勢であるようにも感じる。

Interview / Text : Aika Seto

koll:
2019AW TRUNKSHOW (2019-4-14まで)
https://seenowtokyo.com/collection/koll/2019aw